

本財団は、1922年に「財団法人東京市政調査会」として設立されました。
それは、第一次大戦が終結し、国内的には、明治期からの国家体制の整備と資本主義の発達を経て大正デモクラシーの高揚や社会主義運動の台頭が見られた時期でした。そして、都市の成長がもたらす各種の都市問題や都市自治の在り方が切実な課題として意識されるようになっていました。
そのような時期に、かねてから行政の科学化を志向していた後藤新平が、東京市長就任直前に行った講演において、ニューヨーク市政調査会に範をとった市政に関する自主独立の調査研究機関の設立構想を述べたところ、稀代の銀行家安田善次郎がこの考えに共鳴し、巨額の寄付を申し出ました。主としてはこの寄付にもとづき、東京市政調査会が後藤を設立者・初代会長として1922年2月に設立され、また、今日まで本財団の活動の基盤となっている市政会館が1929年に完成します。こうして、現在に至る本財団の活動が開始されたのです。なお、東京市政調査会は、2012年に新制度による公益財団法人に移行し、併せて法人名称を現在のものに変更しました。この名称変更は、創立の理念を継承しつつ、調査研究および情報発信の機能の一層の拡大、国内外の大学や研究機関との連携の強化を期する趣旨で行ったものです。
創立以来、本財団は、都市と自治の課題についての調査・研究とその成果の発信の活動を行ってきました。戦前期では、たとえば東京市会浄化問題、公益企業法制問題、特別市制・東京都制問題などはその一例です。戦後になりますと、東京都と協力して東京に関する各種の調査研究を行うとともに、それ以外の全国諸都市や東アジアの諸都市をも対象として、個別都市の調査や行政課題ごとの調査を毎年続けてきました。最近では、国・地方関係のテーマや、災害からの地域復興のテーマなどにも取り組んでいます。
以上の調査研究事業と併せて、本財団は、機関誌『都市問題』を1925年から月刊で発行し、都市問題・地方自治関係を中心に論考や資料の提供に努めてきました。また、本財団は、「市政専門図書館」を設置して、主に都市問題・地方自治の領域に関する図書や資料を収集・一般公開し、部内・部外の研究者および関係諸機関の活動に役立てています。
これらの事業に加えて、完成からやがて100年を迎える市政会館は、近年、文化財として指定されるなど、公共的な価値がますます高まっており、その建物と景観の保全も本財団の重要な事業の一つとなっています。
設立から100年を経た現在、東京都市研究所は、創立の理念を堅持し、長年にわたり形作ってきた調査研究機関としての個性を活かしながら、都市と自治の健全な発展と持続に貢献するためにさらに努力を重ねていく所存です。皆さまのご理解とご支援をお願いします。
理事長 小早川 光郎
(こばやかわ みつお)